心臓移植のドナーが慢性的に不足している日本において、重症心不全の治療戦略は常に大きな課題を抱えてきました。薬物療法が限界に達した患者にとって、残された選択肢は、感染症や血栓症のリスクを伴う補助人工心臓(VAD)を装着して移植を待つか、あるいは緩和ケアに移行するしかありませんでした。特に、高齢や併存疾患のために移植の適応とならない患者さんは、有効な治療法がないまま、徐々に低下していく生活の質(QOL)を受け入れざるを得なかったのです。この閉塞した状況に風穴を開け、治療のパラダイムそのものを変える「ゲームチェンジャー」として登場したのが、再生医療です。すでに保険適用となっている自己骨格芽細胞シートは、移植適応とならない患者さんへの新たな治療選択肢(デスティネーション・セラピー)となったり、移植を待つ間の心機能の悪化を防ぎ、体の状態を改善させる「ブリッジ・トゥ・トランスプラント」として機能したりと、治療戦略に大きな幅をもたらしました。これは、既存の治療法を置き換えるだけでなく、これまで治療の空白地帯にいた患者層を救い上げるという点で画期的です。さらに、現在開発が進むiPS細胞を用いた治療は、より大きな変革をもたらす可能性を秘めています。あらかじめ品質管理された細胞をストックしておき、必要な時にすぐ移植できる「他家iPS細胞由来心筋細胞」が実用化されれば、細胞の準備にかかる時間が劇的に短縮され、急性期の患者さんにも対応可能になります。これは、オーダーメイド医療から、高品質な既製品(オフ・ザ・シェルフ)を誰もが享受できる医療へと移行することを意味します。再生医療は、単なる新技術ではなく、重症心不全治療のアルゴリズム全体を書き換え、より多くの命を救うための全く新しい道筋を提示する存在なのです。