再生医療症例集

2025年10月
  • 夢の治療法の課題、乗り越えるべき壁

    医療

    大きな可能性を秘めた再生医療ですが、広く普及するためには、まだ乗り越えなければならないいくつかの課題、つまりハードルがあります。まず一つ目は、費用の問題です。特に患者さん自身の細胞を使うオーダーメイドの治療は、一人ひとりのために細胞を培養し、厳しく品質を管理する必要があるため、どうしてもコストが高くなってしまいます。まるで高級ブランドの特注スーツを作るようなもので、誰もが気軽に受けられる治療になるためには、もっと効率よく、安価に細胞を作る技術の開発が必要です。二つ目は、安全性の問題です。特にiPS細胞のように、どんな細胞にもなれる万能細胞は、ごく稀に、私たちの体のコントロールを離れて予期せず増え続けてしまう「がん化」のリスクがゼロではありません。もちろん、そうならないように、移植する前に厳格な品質チェックを行い、がん化する可能性のある細胞を徹底的に取り除く研究が進められていますが、長期的な安全性を確立するには、さらなるデータの蓄積が必要です。三つ目は、倫理的な問題です。例えば、iPS細胞から精子や卵子といった生殖細胞を作り出す研究も進んでいます。これは不妊治療に光を当てる可能性がある一方で、人工的に生命の誕生を操作することになり、「命の設計図にどこまで人間が手を入れて良いのか」という社会全体での深い議論が必要です。これらの技術的、経済的、倫理的なハードルを一つひとつ丁寧にクリアしていくことで、再生医療は真に多くの人々を救う「夢の治療法」へと成熟していくことができるのです。