再生医療症例集

2025年12月
  • ある心不全患者の選択、再生医療への道

    知識

    数年前の心筋梗塞が原因で、私の心臓はポンプ機能の半分以上を失っていました。薬の量は増え続け、家の中を少し歩くだけで息が壁に叩きつけられるように苦しくなり、夜は体を横にすると呼吸ができないため、椅子に座ったまま浅い眠りを繰り返す毎日でした。主治医の口から「心臓移植」という言葉が出たとき、それは希望であると同時に絶望の宣告でもありました。いつ来るかわからない知らせを待ち続ける長い道のりと、大手術への恐怖。家族にこれ以上迷惑はかけられないと、治療を諦めかけたこともありました。そんな八方塞がりの状況で、主治”医が”「新しい治療法があります」と切り出してくれたのが、再生医療との出会いでした。自分の足の筋肉から細胞を取り、培養してシート状にして心臓に貼るというのです。まるでSFのような話に、すぐには信じられませんでした。しかし、説明を聞くうちに、それが現実の医療として、すでに多くの患者さんを救っていることを知りました。何よりも、自分の細胞を使うという安心感と、移植を待つ以外の選択肢があるという事実が、私の心を強く後押ししました。家族と何度も話し合い、この治療に最後の望みを託すことを決意しました。太ももの筋肉を数グラム取る小さな手術、そして細胞が育つのを待つ数週間は、期待と不安が入り混じる時間でした。そして開胸手術の日。麻酔から覚めた後、集中治療室で感じた自分の胸の鼓動は、以前とは明らかに違う、力強く規則正しいリズムを刻んでいました。術後のリハビリは決して楽ではありませんでしたが、日に日に息苦しさが消え、平らなベッドで眠れるようになった時の感動は忘れられません。今では、妻と一緒に近所の公園を散歩するのが日課です。再生医療は、私の心臓だけでなく、失いかけていた穏やかな日常と未来への希望を再生してくれたのです。